我が国、最後の地理的空白部、称名廊下。
立山から流れ落ちる膨大な雪解け水は、側壁200mにして、幅数メートルの壮絶なゴルジュを通過し、350m、日本最大の瀑布、称名滝へ落ちていく。
自然が作りし至高の芸術作品。生命をかけた究極の遡行、冒険の真髄が味わえる。
昨年、称名滝最下段を単独で登った私は、その2日後に最高の相棒である藤巻氏と共に、全4段を登った。その時、称名滝の落口から見えるこの全長2kmの壮絶な直線廊下に心を奪われた。美しかった。
その冬、世界的なアルパインクライマーの佐藤氏の情熱に引きずられ、「人類」という制限をもつ身では、もはや絶望的とも思えた称名滝の冬季登攀を成功させることができた。雪と氷に覆われた称名滝の落口に再び立ち、氷雪の廊下を目に焼き付けた。凍った200mの側壁には無数の氷柱が垂れ下がり、その下を、見ているだけで息苦しくなるような、青白く、深い水が流れていた。あらゆる生命を拒む、無機質で、冷たく、重い、そんな水の流れだった。
そしてこの秋、藤巻氏と二度に渡り、この称名の内院に潜り込むことになる。憧れであり、恐怖そのものであったこの空間についに入ることができたのだ。ほんの触りだけだが、どれほど、この時を妄想しただろうか。
今、自分は称名廊下にいる。その幸福を噛み締めた。
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