2016年1月4日月曜日

海谷横断

「年末年始、海谷の旅」
和田一真、宮城公博(セクシー登山部)


 カサカサやヌチャヌチャの白い雪つぶてが重力に逆って下から上へ、あるいは右から左へと、中空へ吸い込まれるように濛々と舞い上がり、それが肉体にぶつかって砕けて飛んでは、一回転して眼球を刺しにくる。眉間に皺を寄せて薄目でそれを耐えるものの、イライラの針はずっとメーターを振り切っていて、敬虔なクリスチャンが聞いたら失神するような罵詈雑言を雪に吐き出し、ついでに絡んだ痰も掃き出し、ズルズルヌメヌメとナメクジのように這いずって進む。鉛色の空から烈々と降り注ぐ湿り雪は下着から陰部までびしょ濡れにし、踏み出すごとに足周りに推定5kgの雪団子のプレゼントをくれる。足先に重りを乗せたまま筋力トレーニングのような歩行運動を延々と気の遠くなるような時間繰り返し、脹脛と太腿の筋肉たちが魂が失われるような悲鳴をあげるものの、なんだか負けたような気になるので悲鳴から耳を塞いで休まず歩む。すっからかんの胃腸と脳が炭水化物・糖分を猛烈に求めているが、ポケットには飴玉がわずかに二つ。パートナーが「今日はここまでにして、テントはろうか?」と言ってくれるんじゃないかと脳みそが期待しているが、僕の口先は「今日はヘッドライドつけて夜中までラッセルを続けるか!」なんていうとんでもない単語を吐いている。そんなこんなしていると、雪煙が静止して視界がぶわーっと開け、白い藪尾根の先、いつも鈍色の糸魚川の街並が艷やかな灰色の建築物群と澄んだ青の海セットとなってまるでジブリ映画に出てきそうなハッピーなオーラを放ち、それがおっぱいのような山の谷間に慎ましく申し訳なさそうに挟まれていて、とてつもなく可愛く、そんな素敵な景色を眺めて幸せを感じると同時に、「俺たちこんな目にあってんのに、あそこでセックスしているカップルがいるんだな」と、つくづく今年もハッピーニューイヤー




全身を新品のモンベルのカッパで固め読図するナメ太郎。世界的に見ても極めて高い不快指数を誇る山域に居るにも関わらず、まるで核シェルターに引きこもっているかのごとく厳しい外界から身を守ってくれるモンベルのカッパ。モンベルの商品があまりに素晴らしすぎて、これでは登山者が山で自然の厳しさを体験する機会を奪っている! と、まぁ、冗談のようなヨイショはさておき、ぶっちゃけ、この手の雪山では何着ても濡れるし、藪でグサグサになるので、高価なパタゴニアのハードシェルより比較的安価な新品級のモンベルカッパあたりがベターなのは確か。あ、俺はその比較的安価なカッパを買う金もないので、心優しいモンベルさんに商品を提供して頂いて升。これはどちらかというと、アウトドア企業がクライマーの挑戦を応援というより、いち企業が橋の下の住人を支援するという感じでの提供。そんな感じでカッパを貰った。と、こんなこと書くとモンベル広報部に怒られそうだ。ちなみに、誤解されるといけないのですが、山岳誌に載っている海外遠征で成果を出している有名クライマー連中が、アウトドア企業から大金貰っていると思ったら大間違いで、優雅に泳ぐ白鳥が水面下で激しくバタ足しているように、大抵は細々と短期の肉体労働をして稼ぎ、それでクライミングに出かけているのです。その短期労働で食いつなぐというのもそれなりに大変で、個人事業主としてそこそこの自己管理能力が求められる。どれくらいの能力かというと中堅企業なら課長以上クラスの能力がないと厳しい、となんとなく推測。自分で稼がないのであればヒモとして生きるスケコマシ能力がいる。もしくは秒速で億を稼ぐに代表される教祖・詐欺師・マルチビジネス家としての才能を持ってして「夢を追って生きよう!」などと言った聞こえのいいメッセージを発し、企業講演をハシゴして食いつなぐスキル。クライマー魂に正直に生きようとすると、世の中、雪山のように冷たいのです。



ワカンを背負ってラッセルをする舐め太郎。我ながらワカンの背負い方がカッコイイと思っている。


湿度100パーセントの猛烈な湿雪でも焚火をするのが沢ヤということで、三島由紀夫と週刊プレイボーイとゴミをファイヤー。雪山でスコップは焚火の台座として役立つので覚えておきましょう。徹底的合理主義に基づく研ぎ澄ませた軽量化こそアルピニズム的な衝動と自制だ! などと言いつつ、山に本を持って行くことで文化系男子ぶるのがセクシー登山部として正しい姿勢。あれだ、グラビアでオナニーして、精液の軽量化と、蛋白源の摂取という永久機関論。


エビグラというナウい壁へロープを伸ばす、和田くん。
「宮城さんのこと、暴れキャラだとみんな誤解してるけど、ぶっちゃけ良識人ですよね。自分の狭い枠組みの中でしか物事を考えられない人にはただの怖い人に写るんでしょうが、過激なように見えて、やること言うこと筋通ってるし、先人達の築いてきたものを正当に受け継いでいるだけじゃないですか。それを踏まえた上でね、モテに関したこというと、宮城さんは本当のことを言うからモテないんですよ。嘘ついてでも相手に話合わせないとダメ。でも、そういうのできないんですよね? 合理的・建設的な話が通じない人と仲良くできないでしょ? 俺もできないんですよ。だから今後もモテないですよ、お互いに」と、モテ論を展開する和田くん。


 
ラッセル中の和田くん。ずっとラッセルで、そして藪もラッセル。そして藪ズボ。



黒部横断の白眉が黒部川の渡渉なら、海谷では海川となる。


バットレスと言えば北岳! ではない。バットレスと言えば、もちろん日本のバルトロ氷河こと海谷の海老グラバットレス。山岳史試験に出るので覚えましょう。



鉛色の空の下、鉢山山頂から阿弥陀&烏帽子を睨む舐め太郎。岳人の魂ことアックスは、雪崩にぶっとばされたときに無くしたり、あるいは貧乏なのでその場の勢いで売りさばき、今回は借り物。そんな借り物の魂だが、そこにもホンモノの魂は宿る!!


日本のバルトロ氷河こと海谷。扇のように白い翼を広げる粗悪な岩くずの集合体である鋸山は、カラコルムの白眉ことチャラクサ氷河のK6を思い出させる。ここをバルトロ氷河と命名した先人のセンスは素晴らしい。本気なのか、俺たちのように自虐ナンセンスを込めているのか……。


ゴール



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