「純度100%、混じりっけなしのゴルジュ。」
「この空間を知らずして死んでいく人が可哀想。」
「あれ、いつの間にか火星にいるんだけど、地形図あってる?」
神が作りし自然の造形美に賞賛の声が絶えない。
日本海ゴルジュストリート(このネーミングセンス)の中核、不動川ゴルジュを遡行してきた。昨年は天候不順で見送り続け、今年はついに我慢ならず、台風直撃の中の遡行と相成った。
不動川の魅力は、ゴルジュの造形美に加え、他の異次元ゴルジュ達と違い、凄まじい渓相ながらに水流沿いでもギリギリ突破できるという事が上げられる。ショルダー、フック、ボルト、ネイリング、ジャンプ、泳ぎ、爆水ハードフリー。ゴルジュ突破における数々のテクニックがここで試されることになるだろう。
手垢のついたゴルジュと侮ることなかれ、侵食を受けやすい柔らかい土壁は、激流によって、その渓相は日々、変化、進化させ遡行者の魂を揺さぶってくれるに違いない。ここを40年前に見出した、初遡行者のセンスと度胸、その力量は計り知れない。ボルト連打と揶揄されるが、情報皆無の暗黒空間において、当時の貧弱な装備で冷水に首まで浸かり、滝の爆風に耐えながら、手打ちで打つボルトがいかに苦しいものだったか想像に難くない。その後、フリーだとか、ノンボルトだとか威張ってみたとて、それは所詮、おまけのようなものに過ぎない。
不動川の遡行とは、自然の造形美、先人の遺産を巡る最上級の観光地であり、ゴルジュテクニックを駆使する事により奇跡的に繋がるラインに喜び震える、神が作りし究極の遊技場ともいえる。
下部、上部ゴルジュをこなし、左俣大滝下で目覚めた三日目、台風の影響で、豪雨大増水となる。周囲の大スラブ岩壁にはハワイブルーホールを思い起こさせる、百メートルオーバーの大滝が無数に出現した。沢筋は当然不可。丸一日の激烈な藪こぎののち、陸の孤島とかした海谷高知手前でのビバーク。翌朝、まだ濁流おさまらぬ海川をスクラム渡渉、巨岩を駆け下りてのジャンピング飛び石、前方の垂壁ガバへの激流飛び越え前方方向ランジ。どれもギリギリで失敗すれば日本海まで一直線だ。
生存圏である三峡パークにたどり着き、犬の散歩に来ていた地元のおじさんの軽トラに乗せてもらった。優しい陽光と、軽トラの荷台に注ぐ風、田舎の田園風景、冒険の終わりを告げるそれらは、どれもとびっきり優しくて、心の中に暖かいものが溢れんばかりに注がれた。
ゴルジュ突破、やっぱり最高だ。
不動川の中心、100以上はあろう滝の中、最も登攀困難な滝の裏、幾千幾億の時をこえ、このアンモナイトは今もどうどうと鎮座している。
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